女の隙間、男の作為
ようやく通常の業務量に戻ったと安心したところで部長に呼ばれ、今晩の接待に召集された。
昨夜の本社のVIPのお相手をお断りした以上連続でNOとは言えないし、ちょうど美味しい生ビールが飲みたい気分だったから丁度良い。
化学品関係だから松岡も来るらしいけれどお互い大人だ。
昨夜の小さなやりとりなんてビールと一緒に流せばいい。
「瑞帆ちゃん。来月、実家帰るから有休とるつもりだけど大丈夫だよね?」
「珍しいじゃん。別に問題ないけどわざわざ有休までとるの?都内なのに?」
ご指摘ごもっとも。
岡野家は実家は同じ都内だし何なら片道1時間以内だ。
「睦月が帰ってくるみたいだから3日くらい惰眠を貪ろうと思って」
「弟ってまだアメリカだったんだ」
「うん。放蕩息子だから」
瑞帆は他人事だからなのか軽快に笑うだけだ。
我が家の弟はこうも簡単に人の笑いを誘う存在だとは。
むっくん、君はある意味素晴しいよ。
「実家に戻ったら大量に見合い写真があったらどうするの?」
「うちの親に限って言えば、見合い話が舞い込んだ時点で自分が先に相手に会いにいってるだろうよ」
「さすが岡野の母」
「ちなみに今は、近所の本屋に入った新しいアルバイトの男の子に夢中らしく読みもしないのに本ばっかり買ってくるって父さんが嘆きのメールを寄越してきたし」
どうにも美男子に滅法弱い岡野苑美(齢:54)は心のオアシスを見つけ出しては、女性ホルモンを大量分泌させて美肌を保とうとしている。
その対象は高校野球のエースだったり、テレビタレントだったり、近所の大学生だったり、とバラエティに富んでいる。
あれだけ面食いなのに、なぜ父と結婚したのかイマイチ解せない。
(父親が可哀想だから口には出さないけど。でも絶対に弟だって思ってるはずだ)
「あんたの母親ってカンジだよ」
「なんでよ。あたしは面食いじゃないわよ」
「いや、その常識とはやや外れた言動が、遺伝子の為せる技だなと思って」
「うるさいわ」
そもそも面食い遺伝子を受け継いでいるのは弟の睦月のほうだ。
今までも美女の尻ばかりを追い回して何度となく泣きを見ている。
渡米してからは、案の定ブロンド美女に熱を上げて髭面アジア人がブロンド美女に両側からキスされているアホとしか言いようのない写真をfacebookにアップしてるし、もうお姉ちゃんは恥ずかしいのですよ。
(そもそも身内に友達申請してくるのもやめて欲しい)
「まぁゆっくりして来なよ」
「髭面の弟と仲良く手繋いでお買い物してくるわ」
瑞帆は上戸にはまってその後30分間笑い続けていた。
(睦月が帰国したら、瑞帆に紹介してあげなくては)