シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「そう言われれば…。全員…見えてたよな、あの雰囲気。じゃあ、どういうこと!!? あの蝶は…渋谷での蝶ではないということ!!?」
「判らない。もし違うのであれば、誰が何の為にあのタイミングで?
じゃあその黄色い蝶は一体何だったんだろう?」
紫茉は腕を組んだ。
「何とも…不可思議だな。何で関係あるかがさっぱり判らない。
なあ、それより。
紫堂櫂は――
本当に死んだのだろうか」
「は!!? 幻覚? 式神? ありえないって。そんな力感じなかったし…何より芹霞が紫堂櫂だと認識しているんだ。鏡より頼りになるのは、黄幡会での塔での芹霞が証明している。
あの赤い女は紫堂櫂の心臓の位置に素手で深く貫いて、しかもご丁寧にもその手を捻り回したんだ。
あれで生きていたら…ゾンビだぞ?」
「ゾンビ…"生ける屍"、確か芹霞がそんなこと言ってたか」
「紫茉、屍体は上がっているんだ。屍体のないゾンビなんてありえないよ。
それなら《妖魔》だ」
《妖魔》、それは太古より闇に棲息せし邪悪なる幻妖。
それは幸福を蝕む、痛苦そのもの。
それら闇の者の祓いを専門としているのが皇城家。
「《妖魔》化しているのは生きているって言わないし、何より…やだよ、《妖魔》となった紫堂櫂を…皇城が祓うなんて。
敵に…なりたくない…」
そう翠は俯いた。
「肉体のない者が"生きて"いられるなんて、ありえないよ」
腐敗し…火にくべられた紫堂櫂の麗しい肉体。
まるで証拠隠滅のように…急いで進められた彼の葬式。
名実共に、紫堂櫂は…此の世から消えてしまった。
愛しい少女の心の中からも。
それでも――
蘇生して欲しいと願うのは、紫茉だけではなかった。
「あたしはこんな状況、許せない。
こんな残酷なことはあってはならない。
…"逆転"してしまったじゃないか。
以前の仲良く寄り添っていたあいつらは…今はばらばらで。
だから信じたいのかも知れないけど…
紫堂櫂は死んでいないと。
そうでなければ、そうでなければ!!!」
救いがない、そう言いかけようとした時。
「ははははは~」
軽い笑い声を響かせて、ノックもせずに部屋に入り込んできたのは、紫茉の兄、周涅。
皇城家の№2の位階大三位を頂く、赤銅色の美貌を持つ男。