シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
 
「そう言われれば…。全員…見えてたよな、あの雰囲気。じゃあ、どういうこと!!? あの蝶は…渋谷での蝶ではないということ!!?」


「判らない。もし違うのであれば、誰が何の為にあのタイミングで?

じゃあその黄色い蝶は一体何だったんだろう?」


紫茉は腕を組んだ。



「何とも…不可思議だな。何で関係あるかがさっぱり判らない。

なあ、それより。


紫堂櫂は――

本当に死んだのだろうか」


「は!!? 幻覚? 式神? ありえないって。そんな力感じなかったし…何より芹霞が紫堂櫂だと認識しているんだ。鏡より頼りになるのは、黄幡会での塔での芹霞が証明している。

あの赤い女は紫堂櫂の心臓の位置に素手で深く貫いて、しかもご丁寧にもその手を捻り回したんだ。

あれで生きていたら…ゾンビだぞ?」


「ゾンビ…"生ける屍"、確か芹霞がそんなこと言ってたか」


「紫茉、屍体は上がっているんだ。屍体のないゾンビなんてありえないよ。

それなら《妖魔》だ」


《妖魔》、それは太古より闇に棲息せし邪悪なる幻妖。

それは幸福を蝕む、痛苦そのもの。


それら闇の者の祓いを専門としているのが皇城家。


「《妖魔》化しているのは生きているって言わないし、何より…やだよ、《妖魔》となった紫堂櫂を…皇城が祓うなんて。

敵に…なりたくない…」


そう翠は俯いた。



「肉体のない者が"生きて"いられるなんて、ありえないよ」


腐敗し…火にくべられた紫堂櫂の麗しい肉体。

まるで証拠隠滅のように…急いで進められた彼の葬式。


名実共に、紫堂櫂は…此の世から消えてしまった。


愛しい少女の心の中からも。



それでも――

蘇生して欲しいと願うのは、紫茉だけではなかった。



「あたしはこんな状況、許せない。

こんな残酷なことはあってはならない。


…"逆転"してしまったじゃないか。

以前の仲良く寄り添っていたあいつらは…今はばらばらで。


だから信じたいのかも知れないけど…


紫堂櫂は死んでいないと。


そうでなければ、そうでなければ!!!」




救いがない、そう言いかけようとした時。




「ははははは~」


軽い笑い声を響かせて、ノックもせずに部屋に入り込んできたのは、紫茉の兄、周涅。


皇城家の№2の位階大三位を頂く、赤銅色の美貌を持つ男。


< 10 / 1,495 >

この作品をシェア

pagetop