シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
 
風の音が、鬼哭啾々とした響きを奏でる。


暗闇に豹柄の久涅。

攻撃に転じることを躊躇する俺は…肉食獣に魅入られた獲物か。


気を抜けない緊張感が俺の身体に走る。


聞きたいことは山にある。

殴り飛ばしたい衝動は大きい。


しかし…


「なあ…凜」


不意にかけられたその声に。


「血とは…なんだろうな」


俺は…思わず目を細めた。


「心とは…何処にあるのだろう?」


それは…久涅らしくもない、弱さを秘めて。


「何を持てば、本当の自分だと…証明出来るのだろう」


突然何だ?


空を仰ぎ見るその様は、孤独の色に覆われているようで。


「どうすれば…否定されなくなるだろう?」


俺は…

ただ久涅を見ているしか出来なくて。


「欲しいんだ」


まるで泣くようなその声に。


――芹霞ちゃあああん!!!


俺は8年前の俺を思い出してしまう。



「凜、頼む」


まるで似つかわしくない懇願の先にあった言葉は、


「その手首の…俺にくれ」


芹霞の…布?


「お前が持ち主ではないのなら、それに込められた心なんて判るはずもない。俺は、欲しいんだ、それを」


血色の薔薇の痣(ブラッディローズ)は闇色に隠れ、冷たい風に靡く芹霞の布。


風に吹かれてひらひらと…

それは熱い想いだけを煽って。


どうして…芹霞だ?

どうして?


「お前が持つには…相応しくない」


俺は――

首を横に振る。
< 1,003 / 1,495 >

この作品をシェア

pagetop