シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
ああ、目の前に芹霞が居るのに。
手を伸せば届く距離なのに。
どうして俺だって気づいてくれないんだ?
「あ!!! 大事なこと忘れてた!!!
あたしの名前は神崎芹霞!!!
呼び捨てでいいよ…って喋れたらね!!!」
まるで初めて会ったような顔をして。
本当に気づいていないのか?
俺の反応を試しているのか?
焦らしているのか?
否――
芹霞は、そんな高等技術なんて持ち合わせていない。
純粋に…俺を女だと思っているのなら。
その為に、俺の愛が成就出来ないというのなら。
俺は、女装に用はない。
化粧を落とそうと片手を上げれば、
「凜…」
久遠がその手を後に捻り上げ、耳元に囁く。
「このままでいろ」
どうして?
そこまで邪魔したいか!!?
「せりを…刺激するな」
刺激…?
「今度あたしの大切な人達紹介するね。
"約束の地(カナン)"の住人は知っているだろうから…ええとね、まず…此処には来てないけど、神崎家の番犬オレンジワンコの煌でしょ? 白い王子様…財閥の御曹司の玲くんでしょ? 大きな目がくりくり可愛い警護団長の桜ちゃん。あたしの親友の弥生、由香ちゃんは判ってるだろうし…」
…待て。
ちょっと待て。
俺は目を細めた。