シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
 
ああ、目の前に芹霞が居るのに。

手を伸せば届く距離なのに。


どうして俺だって気づいてくれないんだ?


「あ!!! 大事なこと忘れてた!!!

あたしの名前は神崎芹霞!!!

呼び捨てでいいよ…って喋れたらね!!!」


まるで初めて会ったような顔をして。

本当に気づいていないのか?


俺の反応を試しているのか?

焦らしているのか?


否――

芹霞は、そんな高等技術なんて持ち合わせていない。


純粋に…俺を女だと思っているのなら。

その為に、俺の愛が成就出来ないというのなら。


俺は、女装に用はない。


化粧を落とそうと片手を上げれば、


「凜…」


久遠がその手を後に捻り上げ、耳元に囁く。


「このままでいろ」


どうして?

そこまで邪魔したいか!!?


「せりを…刺激するな」


刺激…?


「今度あたしの大切な人達紹介するね。

"約束の地(カナン)"の住人は知っているだろうから…ええとね、まず…此処には来てないけど、神崎家の番犬オレンジワンコの煌でしょ? 白い王子様…財閥の御曹司の玲くんでしょ? 大きな目がくりくり可愛い警護団長の桜ちゃん。あたしの親友の弥生、由香ちゃんは判ってるだろうし…」


…待て。

ちょっと待て。


俺は目を細めた。


< 1,070 / 1,495 >

この作品をシェア

pagetop