シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
 
時間稼ぎをするのは私"達"。

翠が朱貴と七瀬紫茉を避難させるまでの。


暗黙の上で、既に策は変更されていた。


私は、裂岩糸で2つの身体を上部の穴に投げこもうとしていたけれど、あんなにあっけなくただの糸に戻ってしまうのなら、恐らく単純且つ迅速に終えるはずのこの案は上手く行くはずはなかった。


幸か不幸か…周涅がぐだぐだ引き延ばしてくれていたからこそ判った事実。


翠は2人を運ぶ筋力はない。

2人をきちんと目的地に運べるような、制御出来る力もない。

周涅に有効な対抗手段を持っているわけではない。


はっきりいって…足手纏いだ。


しかし、彼だから出来ることが1つだけある。


だから私は、視線だけで翠を呼びつけた。

彼に降りかかる危険も判っている。


だけど翠は此処に来た。


そう。


翠が動いては、

朱貴も動かざるを得ない。


動いて貰わないといけないんだ。


七瀬紫茉を守るのは、

私達ではなく、


朱貴なのだから。


朱貴こそが、七瀬紫茉の王子様。


あれだけ見せ付けたんだ、

最後まで守りぬけ。


そんな虚ろな顔で、状況を他人事のように聞き流すな。


周涅に平伏すしか道はないなどと、簡単に諦めるな!!!


人を――

私達を信じてみろ!!


「朱貴…」


翠が屈んで、煉瓦色の前髪を手で梳かした。



「紫茉を助けるぞ」


翠は笑った。


「俺は…俺達は。

朱貴を置いていかない!!!」


眩しそうに目を細める朱貴に、

翠は力強く言い切った。



「"死なば諸共だ"!!!」



………。


縁起でもない。


この男の教育係は誰だ?



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