シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「で…朱貴の陣は、"約束の地(カナン)"に連れたんだ?」
玲の声が何だか冷ややかに聞こえてくる。
「ああ。先導(ガイド)役の小猿が、泣き喚いて使い物にならなくて、俺が先頭立ってきたんだけれど、途中岐路で迷い迷って危なくなって、最後は…怒った桜が先導した。結局、俺の言う通りの…小汚え雑草がちろちろ生えた道だったけれど」
俺は胸を張ったが、玲は見事に通過(スルー)した。
「ねえ…朱貴は、何で"約束の地(カナン)"を指定したんだろうね? しかも…屋敷の中なんかに、どうして繋げたんだろう? 白皇の領域に、繋げられたこと自体、久遠は驚いていた。
屋敷は白皇縁(ゆかり)の場所。理不尽な雄黄の返答に、朱貴の慈悲によって屋敷という場所を限定したと言えないこともないけれど…、朱貴は"約束の地(カナン)"の細部をよく見知っているのか?
僕には…そう思えない」
「………」
「朱貴は最後、逃げられる千載一遇のチャンスを自らの意志で拒んだ。助けたがっていた紫茉ちゃんを、お前に託すこともしなかった。
薬を飲ませたのなら、彼女は落ち着くはずなんじゃないのか?
それなのに、彼が寄越したのは皇城翠だけ」
玲の…綺麗過ぎる横顔が、心に痛い。
「煌」
鳶色の瞳が、ゆっくり…真っ直ぐに俺に向く。
「その理由――
お前、知ってるね?」
「………」
「そして…僕の選択肢を選ばなかったのも…理由がある。
――…それは消去法ではなく、意図的だね?」
「………」
「僕はお前を責めている訳じゃない。
むしろ…お前が僕を選んでいたら、"何で緋狭さんを選ばなかった、馬鹿かお前は!!!"って詰るだろう。
お前の決断は当然だ。
…迷ってくれたことに、僕は素直に嬉しいと思う」
「………」
「だけど…お前は僕に、
"ごめん"とは口にしない。
情に厚い…お前が」
「………」
「それに。
お前の目は――
諦めたモノではない」
「………」
「煌。何があった?
決断までの間に」
それは心を見透かすような瞳で。
だから俺は――
力を抜いて笑った。