シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「"生えた"後に、俺、此処に来れてよかった…。朱貴いない時に、またあの音に脳味噌掻き混ぜられたくねえし…」
「音?」
「ああ。小猿と俺だけ、聞こえるらしい」
その小猿は、暢気にまだぐうすか寝てやがる。
「朱貴曰くあの塔は…お前が解読出来ねえ周波数を増幅するとかなんとか…。封印を解くのに、電脳世界の力が必要だとかなんとか…。
他にも何か言ってたかも知れねえけど、それは"なんとか"に集約されていると思ってくれ」
「封印とは何だ?」
そう…玲が怪訝な顔をした時だった。
女の――
強い語調の声がしたのは。
「……この声…芹霞!!!?」
玲がびくんと体を揺らした。
俺達が見つめた先は、屍達が逃げてきた方角で。
俺達は足早に、その方角に赴く。
声は大きくなる。
「芹霞だけじゃねえな。
この声…久涅も居るのか!!?」
俺の強張る体の中に、緊張感が走る。
「なあ、玲。無効化出来る久涅がいるから…屍が逃げてきたのか?」
「多分、それが正解だろうね。だから此処周辺には、蛆も蚕も蝶も居ない。
此処に居る生者は、芹霞と久涅だけじゃないね。
…掠れているけど、この声…」
「櫂だ!!!」
俺が聞き違えるものか!!!
ようやく、櫂に逢える!!!
俺は、肩の小猿を叩き起こす。
「小猿、お前の出番だ!!!
久涅対策にお前が必要になるかも知れねえから、身構えておけ!!!」
「んにゅぅ?」
…なんちゅう…緊張感ない返事だ。