シンデレラに玻璃の星冠をⅡ


「玲くん…どうして此処に!!?」



まだ…慣れない。


此処は――


紫堂財閥本家の客間。


礼儀正しい玲くんが、夜中に(一応)婦女の寝室に侵入するなんて、ありえないとは思うんだけれど…


「芹霞、僕がいるからね?


僕が…守ってあげるからね?」


今にも泣き出しそうなその顔と声音を聞いていると、本当に玲くんは優しいなと思う。


玲くんだって仕事で疲れているんだろうに、眠らずあたしに付き添ってくれている。


玲くんが駆け付けるほど、あたしは大声で叫んでいたのだろうか。



「また…ごめんね、玲くん。こんな時間…起こしちゃって」



「大丈夫だよ、僕は…何日も寝ないで仕事することもザラだったから。

それに…1人で居たって、睡眠薬を飲まなきゃ寝れない状態だし」


そうにっこり笑う顔は、憔悴して疲れ果てていた。


そこまで…次期当主というものは大変なんだろうか。


それでも玲くんがその肩書きを望んでいるのなら、あたしには口出しする権利はない。


玲くんは、玲くんの考えがある。

玲くんの人生があるのだから。



「君が安心して眠れるまで、僕が此処についていてあげる。

だから安心して――

おやすみ、芹霞」



玲くんの声音は、限りなく静かで。

あたしの手を握りしめる玲くんの手は、限りなく優しくて。


傍に居てくれるだけで安心する。


以前に経験した入院中のことが喚起され…

あたしは玲くんという存在に、癒されていることを知る。


あの時も玲くんはあたしにつきっきりで、あたしの世界は玲くんだけしかいなかったっけ。


「入院のことを思い出すね。

ふふふ、煌がよく室内に泊まりたがって…桜ちゃんに引き摺られて帰ってたよね。

お見舞いに来てくれる2人がいなくなったら寂しかったけれど…だけど玲くんいたからあたし安心してたんだよ」


そう笑ったら、


「思い出すのは…それだけ?」


か細く震える声音が聞こえた。

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