シンデレラに玻璃の星冠をⅡ


「それだけって…他に何を思い出せることある?」


そう首を傾げたら、玲くんは…ごめんとひと言呟いて、俯いてしまう。


最近、玲くんは口癖のように「ごめん」を連呼する。


何に対しての謝罪か、あたしには全然判らない。


玲くんが桜ちゃんと住んでいた家は火事に遭い、更に偶然にも神崎家まで燃えたらしい。


あたしは玲くんのおかげで、衣食住に困らず流浪の民とならずにいられて…悪夢に魘されたら飛んで来てくれる優しい玲くんが傍にいて…何であたしに謝る必要があるんだろう?


ごめんを言うべきなのはあたしの方だというのにね。


だけど玲くんは、困った顔をして…理由を話してくれないんだ。


その哀しげに満ちた顔を見ると、酷く切なくなる。


玲くんは…何を抱えているのだろう。


あたしは、玲くんの役に立てないのだろうか。


優しい玲くんに、少しでも恩返しが出来ないのだろうか。



優しい優しい玲くん。


いつも我慢ばかりしてしまう玲くん。



玲くんという存在は――


水を想起させる。



ゆらゆら、ゆらゆら。



穏やかな静寂の中、音ももなくひっそりと拡がる水紋のよう。



ゆらゆら、ゆらゆら。


揺らめきに合わせて、あたしは意識を沈めるんだ。


ゆっくりと――

静かに――。



それはまるで、闇夜の海に漂いながら沈む死体のようだと…


何故かそんな奇妙なことを考えてしまって…


目を閉じたまま、薄く笑った。


< 16 / 1,495 >

この作品をシェア

pagetop