シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「それだけって…他に何を思い出せることある?」
そう首を傾げたら、玲くんは…ごめんとひと言呟いて、俯いてしまう。
最近、玲くんは口癖のように「ごめん」を連呼する。
何に対しての謝罪か、あたしには全然判らない。
玲くんが桜ちゃんと住んでいた家は火事に遭い、更に偶然にも神崎家まで燃えたらしい。
あたしは玲くんのおかげで、衣食住に困らず流浪の民とならずにいられて…悪夢に魘されたら飛んで来てくれる優しい玲くんが傍にいて…何であたしに謝る必要があるんだろう?
ごめんを言うべきなのはあたしの方だというのにね。
だけど玲くんは、困った顔をして…理由を話してくれないんだ。
その哀しげに満ちた顔を見ると、酷く切なくなる。
玲くんは…何を抱えているのだろう。
あたしは、玲くんの役に立てないのだろうか。
優しい玲くんに、少しでも恩返しが出来ないのだろうか。
優しい優しい玲くん。
いつも我慢ばかりしてしまう玲くん。
玲くんという存在は――
水を想起させる。
ゆらゆら、ゆらゆら。
穏やかな静寂の中、音ももなくひっそりと拡がる水紋のよう。
ゆらゆら、ゆらゆら。
揺らめきに合わせて、あたしは意識を沈めるんだ。
ゆっくりと――
静かに――。
それはまるで、闇夜の海に漂いながら沈む死体のようだと…
何故かそんな奇妙なことを考えてしまって…
目を閉じたまま、薄く笑った。