シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
 
「お前…一応、桐夏で数学やってるよな?」


玲が言い、俺はこっくりと頷いた。


「…現役の高校生だよな」


俺は深く頷いた。


玲の大きな溜息。


「ああ…嘆くのは今更だね。

いいか、虚数とは――

英語でimaginary number。略して"i"。

"ジジョウ"すると-1になる理論上の数字だ」


「へえ…」


"ジジョウ"て何だろ。


事情?

自浄?

自乗?



「へえ…じゃないだろ、てめえはッッッ!!!

前々回の数学の定期テスト範囲として、

櫂様に習ってただろうがッッッ!!!」



「………。

……………?

……………??

……………???」



「…もういい。腹立つだけだ。

どうしてこんな男に、私が敵わなかったんだ…」



何やら桜がぶつぶつ唱えているけど。


「どうして…勉強したばかりの"虚数"の記憶がなくなるんだろうな、お前の頭。虚数くらい、普通は判るぞ? 虚数…」


「何か…"巨峰"みたいだな」


「お前くらいだ、虚数と巨峰を同じく考えるのは!!! 何処が似てるんだよ!!! 大体食い物じゃないよ!!!」 


「ねえ…虚数って何?」


玲の苛立った声に対して、そう言ったのは…うっすらと目を開けた芹霞。



「玲くん…それってなあに? ブドウ?」


ああ、俺と阿呆タレは同じレベルだ。


食い物の話で目を覚ましたのか。



「巨峰は何処? 皆で食べよう?」


そんなことを聞けば――



「阿呆タレ。何処が似てるんだよ。

虚数とは――

"ジジョウ"とかいう変なことをしたら、何かが変に変わる変な数学関係っぽいことなんだよ」



少しばかり先輩風吹かせたら。




「てめえ――

威張り腐る要素が何処にある!!!?」



桜が、俺の頭を真上から肘打ちした。

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