シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
にっこり。
玲が芹霞に微笑みかけている。
「巨峰じゃなくて虚数の話だよ。"キョスウ"…"ジジョウ"すると…ああ、"事情"でも"自浄"でも"自乗"でもないからね。ああ、やっぱりそんなことを考えていたんだ?
虚しい数と書いて、"虚数"。初めて聞いたって? そうか…君もそこのオレンジワンコと同じ数学のテスト範囲のはずだったんだけれど…まあいいや、そういうこともあるよね。ふふふ。可愛い、可愛い。虚数なんて実生活に直接役立つものでもないし、知らなくてもいい知識だからね。
え…気になる? じゃあ僕が簡単に教えて上げるね?」
おい!!!
何でそんなに態度が違うんだよ、お前!!!
俺には冷たい眼差しだったくせに。
知っていて当然みたいな態度じゃなかったか、お前!!!
玲は俺なんて無視だ。
「例えば…直線の真ん中に"始点"があると考えようか。右側の"東方向"を正の数とした時、真ん中の始点から東に10km進んだ右端の終点を"+10km"と言えるとしたら。逆に始点から左側の"西方向"に10km進んだ左端の終点は、どう表現出来る?」
「んんと…"-10km"?」
「ん。よくできました」
ちゅっ。
「玲~~ッッッ!!!
今、芹霞のほっぺに何をした~!!!?」
「煩いな。お前もして欲しいなら、正解してみろよ」
「違う~ッッッ!!」
俺を無視して、玲はまたにっこりと芹霞に微笑んだ。
「じゃあね、真ん中にある始点から東に10km進んだ直線の右端場所から、西に10km進んだら…つまり始点の位置に戻るということだけれど、それはどう表現出来る?」
「んんと…んんと…それも"-10km"かなあ?」
ちゅ。
「よく「玲、おま「黙れ、この愚犬ッッ!!」
3人の声がほぼ重なった。