シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
 

判ってはいたんだ。


所詮は邪恋。


更に俺は――

芹霞の仇で、芹霞自身の運命も櫂の運命もを狂わせた男で。


血に塗れた事実は消えはしねえ。


今も尚、知らぬ間にこの身は…血に染まっていやがる。

俺の身は…穢れていると、何処までも現実が襲いかかる。


ならば俺は――。


「煌…。お前、何故玲様を行かせた?」


それは、抑揚のない声で。


判って…いるんだろう、桜は。



「罪悪感に満ちて八方塞がりの玲様が、それでも"お試し"を決行するということは、並々ならぬ覚悟をお前も感じているはずだ。玲様は…引く気はない。そんな玲様が判っていながら、何故あっさりと行かせた? いつものお前らしくなく」


恐らく判っているんだ。


「お前は…いつも通りに振る舞おうとはしているが、実際心の内では…芹霞さんから引くつもりだったんじゃないのか?」


やはり。


だから…その意志を固めさせるために、桜は事実を口にしたのだろう。


そして知らぬままに道化とならぬよう、俺に同情するが故に。


芹霞が櫂が選んだ時点で、俺の恋は終わるからと。


終わらせようと…したのか。

惑い続ける俺の為に――。


「俺は……芹霞から大切なものを奪って。櫂からも大切なものを奪った。

そんな俺を受入れてくれるというのなら、今までの場所で生きることを許してくれるというのなら、俺は代償に…何かを失わないといけねえ。

それくらいのことをしでかしたんだ。

あいつらにとって心底大切にしていたのと同等な…俺にとって心底大切なもの。

俺は――

それを捨てねばならねえ」


やばいな。

身体が…拒否感に震えてくる。



「それが…

芹霞さんへ恋愛感情か」



俺は自嘲気に笑い、黒ずんだ空を見上げた。
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