シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「女装してたら、太股の刻印が見えちゃうからね~」
その氷皇の一言で、緋狭様は溜息をついて私から、危険な視線を外した。
途端に、私のコメカミから汗が噴き出た。
「こんなにフリルがついて、可愛いのに…。桜なら着てくれるかと思ったのに…」
そんな声が聞こえた気がしたのは、きっと聞き間違いだろう。
緋狭様にオトメ趣味があるわけがない。
「いい、サクラチャン。絶対、太股の…赤い薔薇の花の刻印は、他人に見せたら駄目だからね? 暴発寸前の濃厚でがつがつした性交渉の際にも、下だけはちゃんと履いたまま…「アオ、桜はまるで聞いていないぞ?」
私は氷皇の言葉など無視して、ある事柄を思い出していた。
「思い出してるの、2ヶ月前の…血色の薔薇の痣(ブラッディローズ)」
仕掛けた側の人間だった癖に、氷皇は他人事のように聞いてくる。
私が水槽にて体力を回復していた間に、右太股の真ん中に、突然発現した3cm四方の痣。
そう――
似ているのだ。
2ヶ月前に被害にあい、同時に加害者となった"生ける屍"…そんな少女の腕にあった痣と。
「大丈夫だよ、今は…意味が違うから」
だけど、いい意味ではないのだろう。
緋狭様が私を助けたのが"必然"というのなら。
氷皇がそれを黙認したというのは、魂胆があるわけで。
「時期がくれば、判るよ?」
何処までも酷薄めいて氷皇は笑うだけ。
そして――
「あ、そうそう、忘れる処だった。
これ、レイクンに会ったら渡してね」
青い封筒。
表には、丸文字で『愛するレイクンへ』
裏には封が、ハートのシールで留められている。