シンデレラに玻璃の星冠をⅡ


――おい。くれぐれも…翠には見せないでくれ。刺激が強すぎる。


別れ際、朱貴は…私に言った。

多分、翠が馬鹿蜜柑と話しているから、私に言ったのだろうけれど。


刺激?


――そして、俺が引きつけている間、必ず紫茉を…。


私は頷いた。


多分…馬鹿蜜柑が考えている程、優しいものを朱貴が実行しようとしているのではないだろう。


感情が一切無いような…この仮面の顔は、これから始まることに対しての激しい嫌悪感と拒絶感に違いなく。


覚悟を超えた…強い意志が感じられる。


嫌で堪らないものを実行しようとするのは、聖との約束…というよりは、完全に…七瀬紫茉に関係することであって。


それ故に彼は決意したことであって。


何をしようとしているのかは判らない。


だけど多分――

私は見ることになるのだろう。


朱貴が、本当は隠したがっている彼の別面を。

それは…翠にも隠し続けてきた、彼の過去に繋がるものに相違なく。


そこまでの覚悟をしなければ、七瀬紫茉は助からない。


彼女は…窮地に陥っているんだろう。


彼女の兄の血によって。



「では、皆はんは…あの建物の茂みにあるマンホールから、地下道を抜けて"会場"にお越し下され。ウチと朱やんは…正式ルートにて、準備せねばならんやさかい、正面玄関から行きま。

では…また後で」


夜の上岐物産に、正々堂々正面玄関から潜れるのはどういう理由だ?

そして会場は…抜け道に繋がるもので。


怪しいものは、何故開催される?

何故上岐物産だ?


謎が深まれど、それに返答をくれる者はなく。

私達は、聖の指示した地下道を歩いた。
< 892 / 1,495 >

この作品をシェア

pagetop