シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
――おい。くれぐれも…翠には見せないでくれ。刺激が強すぎる。
別れ際、朱貴は…私に言った。
多分、翠が馬鹿蜜柑と話しているから、私に言ったのだろうけれど。
刺激?
――そして、俺が引きつけている間、必ず紫茉を…。
私は頷いた。
多分…馬鹿蜜柑が考えている程、優しいものを朱貴が実行しようとしているのではないだろう。
感情が一切無いような…この仮面の顔は、これから始まることに対しての激しい嫌悪感と拒絶感に違いなく。
覚悟を超えた…強い意志が感じられる。
嫌で堪らないものを実行しようとするのは、聖との約束…というよりは、完全に…七瀬紫茉に関係することであって。
それ故に彼は決意したことであって。
何をしようとしているのかは判らない。
だけど多分――
私は見ることになるのだろう。
朱貴が、本当は隠したがっている彼の別面を。
それは…翠にも隠し続けてきた、彼の過去に繋がるものに相違なく。
そこまでの覚悟をしなければ、七瀬紫茉は助からない。
彼女は…窮地に陥っているんだろう。
彼女の兄の血によって。
「では、皆はんは…あの建物の茂みにあるマンホールから、地下道を抜けて"会場"にお越し下され。ウチと朱やんは…正式ルートにて、準備せねばならんやさかい、正面玄関から行きま。
では…また後で」
夜の上岐物産に、正々堂々正面玄関から潜れるのはどういう理由だ?
そして会場は…抜け道に繋がるもので。
怪しいものは、何故開催される?
何故上岐物産だ?
謎が深まれど、それに返答をくれる者はなく。
私達は、聖の指示した地下道を歩いた。