俺様専務とあたしの関係
駐車場へたどり着くまでの間、専務はさりげない優しさを見せてくれた。
人にぶつからない様にそっと庇ってくれたり、歩調を合わせてくれたり…。
ムカつく所もあるけれど、女の子の喜ぶツボを心得ている。
そんな感じがするわ…。
だから、モテるのよね。
「なあ、美月。明日から、そんな感じで出勤して来いよ」
ハンドルを握りしめ、真っ直ぐ前を向いたまま専務は言った。
「え~。イヤです。恥ずかしいですから」
「そんな事を言うなよ。オレ、けっこう好みなんだけどな」
だから、何であたしが専務の好みに合わせないといけないのよ。
視線を窓の外に移し、何も答えない事にした。
話せば話すほど、相手のペースに乗せられそうだから。
沈黙が続く中、車は夜の街を快適に走り抜け、気が付いた時にはあたしの家の前に着いていた。
そして車を停めると、専務はあたしを見つめたのだった。
「その方が、美月に合ってるよ。堅そうに見えるのがもったいない」
「…。堅いのもあたしですから」
何も知らないくせに、分かった様な口をきかないで欲しいわ。
ぶっきらぼうなあたしとは違い、専務の口調は穏やかだ。
「確かに、堅いのも美月かもしれないけど、今の感じだって美月に間違いないよ」
「今日初めて会ったのに、随分分かった風に言うんですね?」
生意気な言い方と分かっていても、ついトゲのある言い方になってしまう。
だけど、今回に限っては、専務は少しも気を悪くしなかった。
「分かるよ。オレだって、これでもいろんな人間と会ってきたんだ。美月の事だって、少しは分かるさ」