ショコラ~愛することが出来ない女~



「……ごめん、康子さん」


30分後、ようやく落ち着いた彼は、落ちた服を拾って私の前に覆いかぶせる。


「ううん。こっちこそごめんなさい」

「確かに舞のことは俺に責任がある。……ちゃんと考えるよ。亜衣のことも、依存症から立ち直るまではちゃんと面倒見る。でも康子さん、俺は」

「……」

「いつかはあなたのところに戻ってきたい」


真剣な眼差しに心は揺らぐ。
だけど、私はゆっくり首を横に振った。


「……私、あなたが『老後』の心配までしてくれたことが嬉しかったわ。私はもう、先が見えてきている歳で。いつか仕事を失った時、あなたみたいな人がそばに居てくれたらどれだけいいだろうって思った。……でも」

「康子さん」

「でも、あなたはまだまだ『現役』なのよ。老後に思いを馳せるよりも目先にやることがたくさんあるの。まだ小さいお子さんがいて、仕事もこれから役職へと望まれていく歳で。
……大人になってもやっぱり歳の差ってのはあるわ。それを超えられるほど大きな感情を、私は持てなかった」

「……」

「だから別れるのよ。決して舞ちゃんや亜衣さんのせいじゃないわ」

「……うん」


かすれた声で頷いた彼は、乱れた服装を直すとゆっくりと立ち上がった。

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