ショコラ~愛することが出来ない女~
「……隆二くん」
その口の動きを見て、彼はすぐさま扉の方へ行き鍵を開けた。
「康子さん。久しぶり、入る?」
ブランクなんかそっちのけで、彼は簡単に私との間を詰めてくる。
変なところはプライド高い癖に、こういう時は全くないのよね。
「入る。疲れたの。休ませてくれる?」
「いいよ。どうぞ」
店内の明かりをつけて、まずは珈琲を一杯入れてくれた。
鼻孔をくすぐる豆の香り。
これは多分キリマンジェロだ。
私は一番好きだった珈琲を、ちゃんと忘れずに居てくれる。
それに砂糖を大量に投入した。
「相変わらず甘党だね」
「最初、意外だってあなた言ったわね」
「だって康子さんはクールな仕事人って感じだったし」
クスリと笑われる。
思い出話も、隆二くんと同じ。
あっという間に互いの間の時間を取り去ってしまう。