ショコラ~愛することが出来ない女~

私は駆け寄って詩子の顔を押さえつける。


「ちょ、母さん何!」

「良いからじっとしなさい。口動かさないで」


カバンから口紅を出して塗りつける。


「ちょ、なにぃ?」

「綺麗な色でしょ。夏に出た新色だったの。
しばらく使ってたけどそろそろ飽きたからあげるわ」

「えー。まあいいか。ありがと」


その口紅を塗った唇で、隆二くんとキスをした。
たくさん、たくさん。

たった数ヶ月前のことなのにそれがもう遠い。


「隆二くんに、私は大人よって見せつけてやりなさい」

「あはは! 分かった了解!」


詩子は、さっきの食事の時の会話を思い出したのか、何の疑問も持たないように笑った。


それでいい。

詩子は気付かないで。

こんな素直じゃない、どうしようもないような母親の意図には気付かないで。


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