描かれた夏風
初夏の訪れ
 ――あれ? 誰かいる……。

 私が初めて先輩と出会ったのは、黄緑色の桜の葉が眩しい季節のことだった。

 教室移動の途中で窓の外を何気なく見下ろした私。

 目に飛び込んできた景色に、一瞬にして心を奪われた。

 校舎裏に立ち並ぶ桜の隙間から、制服姿の誰かが立っているのが見える。

 短いのに柔らかそうなくせっ毛が特徴の、背が高い男子生徒。

 グレーのブレザーを適度に着崩している。

 見覚えがないから、多分上級生なのだろう。

 彼はフェンスの周りの茂みにぼんやりとたたずんでいた。

 ――手には、花。

 深緑の中で真っ赤に存在を主張するツツジ。

 彼は細い指をそっと伸ばして、花を一輪とる。

 そっと口元に花を持ってくると、彼は優しく口づけた。

 ざあ、と風が駆け抜けていったのが窓越しにもわかる。

 桜色の季節を追い払う、鮮やかな夏疾風。

 その風にのって運ばれてきた初夏のころに、私は一つの恋をした。
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