描かれた夏風
「友絵ちゃん、できはどうかしら?」

「えへへ、実はまだいい題材が見つかっていないんです」

 私、西口友絵は話しかけてきた先輩に柔らかな微笑みを返した。

「実はね、私も全然なのよ。題材は先生に相談して決まったのだけれど……。あーあ、みんなピリピリしてて嫌になっちゃう」

 同じ芸術科の三年生である野間野アスカ先輩は、そう言って静かにため息を吐いた。

 茶色がかったショートヘア。日替わりのヘアピンが大人っぽい。

 あっさりした性格で絵もうまいアスカ先輩に、私は前々から憧れていた。

「仕方ないですよー。芸術展に出られる機会なんてめったにないから……。アスカ先輩、頑張ってくださいね。先輩は代表になるって信じてます!」

 私は先輩を元気づけようと明るく言った。アスカ先輩は、疲れた顔に苦笑いを浮かべる。

 心なしか、胸元で結ばれたリボンもクタリと元気をなくしていた。

「頑張って、じゃないでしょ。友絵ちゃんも芸術科の一員なのだから。私たちもライバルよ。一年生と三年生とはいえ、芸術に年齢は関係ないもの」

「あはは、そうでしたね。でも私なんてアスカ先輩の足元にも及びませんよ」
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