描かれた夏風
 手渡された缶を受け取る。暖かくて、心が落ち着く気がした。

「あげる。向こうで普通科の二年生が飲料屋やってた。これ飲んだら落ち着くよー」

「あ……ありがとうございます」

 もう涙はひっこんだ。変わりに胸の中をモヤモヤしたものがうごめいている。

「何があったか聞いていいかな? 力になれることだったら力になるよ」

 智先輩の優しい言葉に、また涙が出そうになってしまった。

 今まで気づかなかったけれど、私は相当な泣き虫だ。

「……智先輩は誰にでも優しいですね」

「え? そうかな。むしろ真逆だと思うよ。自分と自分の大事な人以外は、極めてどうでもいい」

 本人が自覚していなくても、智先輩は誰に対しても優しい。

 泣いている後輩がいたら放っておけない、とてもとても優しい人だ。

「――で、そろそろ説明してもらってもいいかな?」

「え?」

 智先輩の表情がいつになく真剣なことに驚く。

「野間野アスカの名前で展示されている絵……あれは友絵ちゃんの絵だね。違う?」

「ど、どうして判るんですか?」
< 112 / 134 >

この作品をシェア

pagetop