描かれた夏風

平穏と影

 それらがジワジワと平穏を侵し始めていることに、今の私はまだ気づいていなかった。

 昼休みがくるたびに、スケッチブックを持って裏庭で鉛筆を走らせる。

 文化祭を狙う作品として、私はこの景色を描くことに決めた。

 智先輩と始めて会った場所。いつも和やかな気持ちで見られる、この大好きな景色を。

 きっと優しい絵になる。

 そしてそれを、智先輩の妹さんに見せてあげるんだ。

 喜んでくれたら嬉しい。

 でもその頃には彼女もきっと退院してるんだろう。

「西口さん、ちょっといいかしら?」

 智先輩と会って一ヶ月が経とうとしていた、ある日の放課後。

 クラスの女子集団に呼び出されて、私は仕方なく裏庭に向かった。

 案の定、そこには罵倒の言葉が手ぐすね引いて私を待っていた。

「その態度がムカつく。キモイ。野間野先輩と仲がいいからって、デカい顔してんなよ」

 女子五人に囲まれて、私はじりじりと後ずさる。すぐに背中が壁につかえた。

「あんたの絵なんか大したことないくせに」

「春の優秀賞だって、どーせ先生を誑しこんだんでしょ?」
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