描かれた夏風
 あまりの痛みに、クラスメートの女子は顔をグシャリと歪めた。

「せ、先輩、止めてあげてください……!」

 私は我に返って掠れた声を上げた。

 このままだと、下手すれば女子生徒の手首の骨が折れてしまう。

 しかし私の声は智先輩には届いていないようだった。

 智先輩は険しい表情のまま、力を緩めようともしない。

 女子生徒の表情を見ていると、込められた力の強さがうかがえた。

(どうしよう……?)

 怖い。智先輩が、いつもの智先輩じゃないみたいだ。

「止めなさいッ!」

 鋭い声に、時が止まったような錯覚を覚えた。

 その場にいた全員が、一斉に顔をあげる。

「何やってるのよ! 先生を呼ぶわよ……!」

 力強い声と共に、一人の女子生徒が割り込んできた。

 智先輩ほどではなくても高い背。茶色のショートカット。勝ち気そうな瞳は私の憧れだ。

 彼女――野間野 アスカ先輩は、智先輩の手を女子生徒から引きはがす。

 智先輩は、ハッと我に返ったような表情を浮かべた。

「あなたたち、早く行きなさい! このことは黙っておいてあげるから」

 アスカ先輩は手早く女子集団を追い払う。
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