描かれた夏風
 ――でも判らない。好き、ってどういうことを指すんだろう?

 私はアスカ先輩を尊敬している。

 強くて快活で、いつだって凛としていて。

 中学生の頃から大好きだった。

 ――智先輩だって、好き。

 マイペースだけど優しい人だと知っている。

 その二つの気持ちの違いだって、今の私には全然判らなかった。

「どうなの?」

「わ、わかりませんっ」

 アスカ先輩にも自分の気持ちにも嘘はつけない。

 私は思ったことをそのまま口に出して言った。

「そういうのって、よくわからないです。嫌いじゃないのは確かですけど……」

「ふーん。ま、違うならいいの。アイツを好きになった子は苦労すると思うからね」

「え……? それってどういうことですか?」

 私の質問を、アスカ先輩は曖昧な微笑みではぐらかす。

「まあアイツを好きになるような変わった子がいたらの話。――ところで、文化祭に出す絵の出来はどう?」

「えっと、今日デッサンに入りましたよ。割と順調ですっ」

 私は笑顔でブイサインを作った。

 最近は昼休みにスケッチするのが日課だ。
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