描かれた夏風
 見せてと智先輩が言ってくれるけれど、私はそれを断っている。

 完成してからのお楽しみだ。その方がきっと、いい作品が描けると思う。

「私、頑張りますね! アスカ先輩にも負けませんよ」

 私が言うと、アスカ先輩は驚いた表情を浮かべた。

 それもそのはず。

 以前の私なら、こんなこと絶対に言わなかっただろうから。

「友絵ちゃんは変わったわね。……さっき言い返していたのといい、ここ最近で強くなった気がする」

「えへへ。もうアスカ先輩に頼りっきりではいられません」

 さっきみたいに私に文句を言って来る人は、実はあまりいない。

 それはすべて、アスカ先輩がさり気なくかばってくれているお陰だった。

「……そっか。偉いね」

 そう言って微笑むアスカ先輩は、なぜだかとても悲しげだった。

「先輩は上手くいってないんですか?」

「え?」

 私が訊くと、アスカ先輩は首を傾げて動揺を押し隠す。

 私は一度、風の噂で聞いたことがあった。

 ――アスカ先輩が芸術科の担当教員と対立している、と。
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