描かれた夏風
「――あら、何かあったのかしらね?」

 校門を出たところで、アスカ先輩が怪訝そうに言う。 

 見ると、校舎の裏の通りに人だかりができていた。

 私の心臓は一際大きく飛び跳ねる。

(まさか……!)

 ドクン、ドクン。

 痛いくらいに激しい脈拍の音が、すぐ耳元で響いた。

 私は何かに弾かれるようにして走り出す。

「友絵ちゃん!」

 アスカ先輩が何事かと後を追ってくるのがわかった。

 けれど私は足を止めない。止められなかった。

 裏通りには一台の車が止まっている。

 人だかりの隙間から見えたモノを見て、私の心はグシャリと音を立ててつぶれた。

 車のタイヤにまとわりつく、嫌に生々しいモノ。

 赤黒いそれは、血痕と――肉片、それに毛だった。

 黒い子猫の小さな体が、アスファルトに練り込まれている。

 以前の姿を残したまま地面にぺしゃんと押しつけられた様は、まるで押し花のようだった。

「智……先輩……」

 私は震える声で呼びかける。

 すぐそこに立っていた智先輩が、ゆっくりと振り返った。
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