描かれた夏風

不吉な音

「アスカ先輩……今、何か聞こえませんでしたか?」

 昇降口に向かう途中で私は立ち止まった。

 不快な音色を認識して、耳を凝らしてみる。

「何も聞こえなかったと思うけど。またいつもの? こんなに綺麗な夕焼けなんだから、雷なんて鳴るわけないわよ」

 呑気に言うアスカ先輩の顔に、夕焼けの鮮やかな光が降り注いでいた。

 私は昔から妙に耳がいい。

 十キロ遠くの雷や踏切の音まで聞き分けることができた。

「雷とは違いますけど……」

 説明しづらいけれど、今聞こえたのはもっと不吉な音だ。

 コンクリートを針で思いっきり引っ掻いたような。

 けれど耳を澄ませてみても、その音が聞こえることは二度となかった。

「いえ、すみません。気のせいみたいです」

「そう? ならいいんだけど。友絵ちゃんって変わった子ね」

「あはは、先輩ひどいです」

 私は笑顔を浮かべて取り繕う。

 確かに聞こえたはずなのに、音の正体が分からなかった。

 胸の中がモヤモヤする。

 不吉な予感に、頭の片隅がガンガンと鳴った。
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