描かれた夏風

終わった日々

 私はそう言うと、お弁当を持って教室を出た。

「どうだった?」

「なんか意外と普通じゃん」

 背後から聞こえてくるクラスメートの興奮した声を振り切って歩く。

 私はいつものように裏庭に向かった。

 ルカがいなくても、智先輩に会いたい。

 ルカには悪いけど、その気持ちだけは本当。

 だからちゃんとそう言おう。

 私は決めた。

 決めたのに。

「智……先輩?」

 裏庭はガランとしていて、智先輩の姿はなかった。

 乾いた土。青白い校舎の壁。申し訳程度に敷地を囲う、頼りないフェンス。

(そっか……そうだよね)

 智先輩はルカに会いにここへ来ていたのだ。

 だからルカがいなくなった今、ここに来る理由がない。

 考えてみれば、当然だった。

(それにしても、ここってこんなに寂しい場所だったっけ……?)

 きっと智先輩がいないからそう感じるだけだ。

 すっかり葉を茂らせた桜の枝が、空に浮かぶ雲を突き刺さんばかりに伸びている。

 終わってしまった日々のことを思い出して、不意に胸が締めつけられた。

(ここで絵を描いていたら、ルカが膝に飛び乗ってきたんだっけな)
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