描かれた夏風
 手に残っているように感じる、大好きだったルカの温かさ。

 穏やかな気持ちでスケッチブックに向かえたあの日々が脳裏に蘇る。

 私は涙がこぼれそうになるのをこらえた。

 熱い目頭をこすりながら、元来た道をふらふらと引き返す。

 教室には戻り難いな、と思っていたらいつの間にか三年生の教室に来ていた。

 扉からそっと顔をのぞかせる。

 ガヤガヤとざわついた、上級生――それも違う学科のクラスだ。

 自然と萎縮してしまうけれど、私は精一杯の勇気を振り絞った。

「あの、すみません……都築先輩、いらっしゃいますか?」

 入口付近にいた知らない先輩に声をかける。

 迷惑そうに向けられた視線が怖かった。

「はあ? 都築? 見当たらないけど……購買じゃないかな」

「あ、ありがとうございます!」

 ペコリと頭を下げながら、逃げるようにして後退する。

 智先輩に会って、私はどうしたいのだろう。

 今更ながら疑問がわいてきて、急に恐くなった。

 智先輩に会うのが怖い。それは初めての感覚だった。

(もう、帰ろうかな)

 智先輩の言葉を借りれば、会いに来る理由がないのだ。
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