描かれた夏風
智先輩は無表情な瞳を私に向けて、次に発せられる言葉を待っている。
私は前に一度経験したことのある恐怖感を覚えた。
――智先輩が智先輩でなくなってしまうような、そんな感覚。
「あの……今日は裏庭には行かないんですか?」
「理由がないって言ったはずだけど」
おずおずと切り出した私に、智先輩はどこか責めるような口調で応じる。
「僕はもう二度とあそこには行かない。西口さんとも関わらないよ。――用がそれだけなら、もう行くよ」
くすんだ声で言うと、智先輩は今度こそ私を置いて歩き始めた。
表情からも歩き方からも、拒絶の感情がありありとうかがえる。
私は必死で智先輩の後を追いかけた。
廊下の人目も気にせず、震えた声で問いかける。
「理由がないと、駄目なんですか? 智先輩は裏庭には来てくれないんですか?」
智先輩は答えてくれなかった。
歩幅が大きくて、小走りしないとついていけない。
私が足を止めれば、智先輩の背中はぐんぐん小さくなっていった。
「先輩……っ!」
――ここで勇気を振り絞らなかったら、きっとずっと後悔する。
私は前に一度経験したことのある恐怖感を覚えた。
――智先輩が智先輩でなくなってしまうような、そんな感覚。
「あの……今日は裏庭には行かないんですか?」
「理由がないって言ったはずだけど」
おずおずと切り出した私に、智先輩はどこか責めるような口調で応じる。
「僕はもう二度とあそこには行かない。西口さんとも関わらないよ。――用がそれだけなら、もう行くよ」
くすんだ声で言うと、智先輩は今度こそ私を置いて歩き始めた。
表情からも歩き方からも、拒絶の感情がありありとうかがえる。
私は必死で智先輩の後を追いかけた。
廊下の人目も気にせず、震えた声で問いかける。
「理由がないと、駄目なんですか? 智先輩は裏庭には来てくれないんですか?」
智先輩は答えてくれなかった。
歩幅が大きくて、小走りしないとついていけない。
私が足を止めれば、智先輩の背中はぐんぐん小さくなっていった。
「先輩……っ!」
――ここで勇気を振り絞らなかったら、きっとずっと後悔する。