描かれた夏風
 そう感心しただけのつもりだったけれど、マズい言い方をしてしまったかもしれない。

 智先輩の笑みが急に曇るのを見て、私は冷や汗をかいた。

「――嘘は得意だよ、もしかしたら僕の言っていること、全部が嘘かもしれない」

「え……? それってどういう」

 私が言いかけた声は、途中で智先輩に遮られる。

「まあ無事ならいいや。じゃあ、ね」

 素っ気なく言うと、智先輩は私に背を向けた。

(あれ……?)

 何かがおかしい。

 智先輩の背中は、私を拒絶しているかのようだった。

 見えない壁が、智先輩と私の間に立ちふさがっている。

 智先輩が作った壁。一生懸命作ろうとしている壁。

(どうして……?)

 私、気づかないうちに何か嫌われるようなことをしたのだろうか。

 嫌われていると考えただけで、どうしようもないくらいに胸が苦しかった。

「智先輩ッ!」

 苦しいものを吐き出すようにして、私は大声で叫ぶ。

 そうしないと、智先輩に振り返ってもらえないような気がした。

 智先輩がゆっくりと振り返る。その表情からは微笑みが消えていた。
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