描かれた夏風
 私が言うと、友人たちはそれぞれに頷いてくれた。

 そう、最終的にこれは自分との戦いなのだ。

 みんなちゃんと分かっている。

 ――足を引っ張り合う暇があれば前へ進め。

 それが私たち芸術科の生徒の共通認識だった。

 夏休みに入ると、文化祭に向けての作品制作は正念場を迎える。

 私も毎日学校に休日出勤してはキャンバスと向き合った。

 少しずつ筆で描き出す、裏庭から見えていた景色。

 降り注ぐ初夏の太陽を照り返す、白く乾いた土。

 その上に涼しげな影をもたらすのは、緑色が染み出してくる桜の枝。

 小さな木陰に、そよ風までもが一休みしているみたいだ。

 暑くなっていく日差しの中に、キラリとした煌めきがある。

 それは、切ない思いをかきたてる絵だった。

 智先輩やルカのことを思い出すと胸が痛いけど、題材は変えない。

(約束、したから)

 文化祭で、智先輩の妹さんに絵を見せてあげると、そう約束したから。

 だから私は文化祭での三人の代表に選ばれなくてはならない。

 筆がなかなか進まないときも、私はその一念で頑張り続けた。
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