描かれた夏風
 ルカが死んだ翌日以来、一度も智先輩と会っていない。

 同じ学校だとはいえ、学年も教室がある棟も違うのだ。

 ルカという名の細い糸が切れた今、私と智先輩をつなぐものは何もない。

 そう、何もないのだ。

 それなのに。

 自分勝手な約束にすがろうとしている自分が、とても浅はかに思えた。

 ――文化祭の代表になれたら、智先輩は私の絵を見てくれるだろうか。

 また優しく目を細めて、まぶしそうに微笑んでくれるだろうか。

 一方的に告げただけで、智先輩は聞いていなかったかもしれない。

 そんな約束未満の約束が、私の心を確かに支えてくれていた。

 ――駄目だよ。理由にならない。

 ……ごめんね、西口さん。

 ああ言って拒絶されたけれど、私はやっぱり智先輩が大好きだ。

 その気持ちだけは消えない。消したくない。

 切なくて苦々しい恋心だけど、抱えたままでいたかった。

 文化祭の代表に選ばれる。

 そんな目標を胸に、私はただひたすら絵にのめり込んでいった。
< 77 / 134 >

この作品をシェア

pagetop