描かれた夏風
 夏休みも中盤にさしかかると、他の作品の出来具合が気になりだす。

 それは、入道雲が高くそびえ立ったある朝のことだった。

「おはよー」

「お、おはよう」

 友達の挨拶に、私はどこかしっくりこないものを感じる。

「どうかしたの?」

「友絵、これ……」

 友達は私の反応をうかがうかのように、教室の中を恐る恐る指し示した。

 ざわめく教室には、乱れた机が無秩序に散らばっている。

 その中心に置かれていたものを見て、目の前が一瞬、真っ白になった。

 放り出されているのは、私がずっとにらめっこをしてきた景色だ。

 まがまがしい嵐が裏庭を包み込み、教室の床にまで広がっている。

「なにこれ。ひどい……」

 私の絵の上に容赦なく振りかけられていたのは、真っ黒な墨だった。

 ――なんで?

 私はうつむいて、かたく唇を結ぶ。

 長い時間をかけて描いてきた大切な絵が、誰かの悪意に踏みにじられた。

 呆然とした私の頭に、だんだんと怒りが染み出してくる。

 しかしある事実を思い出して、私は顔面蒼白になった。
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