描かれた夏風

間に合わない

 文化祭の代表選考会に出す作品は、あと二週間のうちに仕上げなくてはならない。

 長い時間をかけて描いてきた裏庭の景色が台無しになった。

 あとたった二週間でこれ以上の作品が描けるわけもない。

 私は空っぽの心で、墨のぶちまけられた絵を片付けた。

「教室の鍵ずっと開いてたし……昨日の放課後か今日の早朝か」

「目撃者は今のところなしね」

 犯人探しの途中経過を、私に同情した友人が伝えてくれた。

 みんなの表情に、自分の作品が狙われなかったことに対する安堵感が見てとれる。

 私の絵だけが放り出されて、私の絵だけが墨をぶちまけられた。

 誰かに恨まれているのだと思うと気が滅入る。

 犯人探しなんてどうでもよかった。

 文化祭の代表に私が選ばれることはない。

 それだけが真実だった。

 私は乾いた笑顔を浮かべて、話しかけてくる友達に応じる。

 目の前で起こることは、頭の中からどんどん滑り落ちていった。

「――アスカ先輩」

 学校からの帰り道、見慣れた後ろ姿に声をかける。

 アスカ先輩は大人びた笑顔を浮かべて微笑んでくれた。

「あら、友絵ちゃんじゃない」
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