描かれた夏風

「家族」

 呆れたような表情で、アスカ先輩はさらに続けた。

「あいつに笑顔がないと調子狂うし家の中が暗くなるし、本当に迷惑」

「智先輩は家の中のムードメイカーだったんですね」

 そう言うと、アスカ先輩は実に嫌そうな顔をした。

「どこが! あんなよくわからない奴、空気よ、空気。今、湿度が通常より十%アップしているの。超不快なの。――原因、わかる?」

「それは……」

 私は口ごもってしまう。

 智先輩が落ち込んでいる理由といえば、思いつくのは一つだった。

「ルカのこと……やっぱりショックだったのかな」

 一人ごとをつぶやいたつもりだったけど、アスカ先輩にはばっちり聞かれてしまった。

「ルカ? ああ、最近また調子がよくないんだってね……。智が三日に一回は通ってる。あんな幼い子が、可哀想にね」

 アスカ先輩のしみじみとした言葉に、私は強烈な違和感を覚える。

 どうも話が食い違っていた。

「あの、調子ってどういうことですか? 可愛い子って……先輩が言っているルカって」

「え? 智から聞いたんじゃないの? ルカは私のイトコだけど」
< 81 / 134 >

この作品をシェア

pagetop