描かれた夏風
 アスカ先輩は誰より遅くまで残って絵に向かっている。

 みんなからは天才だと言われているけれど、私は違うと思う。

 アスカ先輩は天才かもしれないけれど、その前にまず、努力の人だ。

「先輩、何かいいことでもありましたか?」

 夕日に染められたアスカ先輩の頬が嬉しそうに見えたので尋ねてみた。

「ううん、別に。でも、何もかもが順調よ」

「そうですか。それは何よりです」

 自分が落ち込んでいるから、相対的に他の人が幸せに見えるのだろう。

 アスカ先輩のいつもと変わらない様子を見て、そう思った。

 アスカ先輩に誘われて、一緒に帰ることにする。

 私には家の近い友達がいなかった。

 ライバル同士ということで、アスカ先輩も友達関係がギスギスしているらしい。

 ならこれからも一緒に帰ろうと誘われて、二つ返事でオッケーしてしまった。

「友絵ちゃん、智と何かあったの?」

 久しぶりの名を聞いて、私の心臓は跳ねる。

 智先輩は、アスカ先輩や家族に何かを言ったのだろうか。

「へ? どうしてですか?」

「最近あいつ、元気ないみたいなのよ」
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