描かれた夏風
「だから、智と友絵ちゃんが仲良いって知ったときね、びっくりしたけど、嬉しかった」

 アスカ先輩は夕日を見上げたまま、まぶしそうに瞳を細める。

 私は思わず視線を下げて、自分の影を見つめた。

 針金のように細長い影が、道端に線を引いている。

 ルカを引いたタイヤの跡が、不意に目の前へと浮かんで消えた。

「他人に興味を持って、ちゃんと友達を作れるんだ、って。……あいつ、友絵ちゃんと会ってから本当に笑うようになったの。以前はバレバレの作り笑顔だったのにね」

「アスカ先輩は、本当は智先輩のこと……嫌いなんかじゃ」

 私が言いよどめば、アスカ先輩は口元に人差し指を立てて笑う。

「言ったでしょ? あいつが元気ないと家の中の湿度がアップして超不快だ、って」

 家族だからね、とアスカ先輩は瞳に優しい光を灯した。

 降り注ぐ夕陽は、いつの間にか血の色から暖炉の日溜まりの色に変わっている。

(……素敵な家族ですね)

 アスカ先輩が照れてしまうのがわかりきっているから、口には出さないけれど。

 智先輩は不幸じゃないと思った。

 アスカ先輩や、アスカ先輩の両親がいる。
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