描かれた夏風
 血がつながっていなくても、ちゃんと想ってくれている。

 紛い物じゃない、本当の『家族』だ。

「私……」

「どうしたの?」

 私は顔をあげて、アスカ先輩の顔を見据えた。

 幼い頃の智先輩が直面していた現実に比べれば。

 私の目の前にある壁なんて、大したことない。

(智先輩もアスカ先輩も、強い人だな)

 今はとてもかなわないけれど。

 いつの日か、先輩たちみたいに私も強くなれたらいい。

 だから……絶対に、私は負けない。

「私、何が何でも、くじけないでいます。――文化祭の代表も、全部、諦めません」

 絵をめちゃくちゃにされたくらいで落ち込んでいた私は、とても幼い。

 アスカ先輩は私の言葉を聞いて、心なしか瞳を黒く濁らせた。

 けれどすぐに、私の好きな大人びた微笑みを浮かべてくれる。

「そう。ライバルだから応援はできないけれど、頑張ろうね」

「はいっ!」


 ――頑張ろうね。


 アスカ先輩の言葉が本物だと、この時の私は信じて疑いもしなかった。

 もちろん今だって――。

 信じていられるのなら、信じたいのだけれど。
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