描かれた夏風
 不用意なことを言って、智先輩を困らせてしまった。

 そう思って立ちすくんでいたら、不意打ちの質問が投げかけられた。

「んー。友絵ちゃん、いつもは誰とお弁当食べてる?」

「え? 私は……私は一人です」

 智先輩に見えないように、私はギュッと拳を握りしめる。

(一人、か)

 嫌な言葉だった。

「ああ、芸術科はみんなライバルで敵同士だって聞いたことがあるよ。大変だねー」

 けれど智先輩は深く突っ込まないで、好意的に解釈してくれた。

「いいよ。おいで。僕も毎日お昼はここに来るから」

 智先輩はそう言って和やかに笑ってくれる。

 私はバッと顔を上げた。信じられない思いで智先輩の顔をまじまじと見る。

「ん? 顔に何かついてる?」

「いえっ。ただ、その……ありがとうございます」

「お礼なんて構わないよ。お弁当は一人より二人で大勢で食べた方が楽しいもんね」

 含みのない純粋な微笑み。とても暖かい肯定のコトバ。

 今の私にはそれが、泣きたいくらい嬉しいものに感じられた。
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