描かれた夏風

ランチタイム

 その日から、私は裏庭の桜の下で昼休みを過ごすようになった。

 智先輩とルカと一緒にいられる和やかな時間は、私の大切な宝物だ。

 ――よ、よかったらご一緒してもいいですか!

 あの時とっさに勇気を出した自分を誉めてやりたいと、心の底から思う。

 あの時ああ言わなかったら、この先の私の人生はきっと大きく変わっていた。

 清々しいチャイムの音色がいつも通り学校中に鳴り響く。

 私は教科書をカバンに片づけると、ノートとお弁当を手に教室を出た。

 廊下に出ると、背後からクラスメートの遠慮ない噂話が聞こえてくる。

 以前ならお弁当を食べながら一人で聞いていた悪口だ。

「何よあの子。最近、昼休みになるといなくなるけど、何してるのかしら」

「不気味ーっ。まあでも教室の空気が暗くならなくていいんじゃない?」

「ははは、言えてる言えてるー。ちょっと可愛いからって先生に媚び売って、何様って感じよね」

 私は前を見据えて大股で歩き始めた。そして自分に言い聞かせる。

(聞こえない、何も聞こえない……!)
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