描かれた夏風
 ここまできた以上、納得のいく作品を代表選考会に出したい。

 最後は自分、そして容赦なく迫り来る時間との戦いだ。

「誰かさんも……他の人の絵に墨をかける時間があるなら、自分の作品を描けばいいのにね」

 しみじみとした真由の言葉に、心の底から同意する。

 あれから、特に目立った嫌がらせはされていなかった。

 描きかけの絵の管理も慎重に行っている。

 諦めなかったから、ここまで来ることができた。

 私は目の前の絵をじっと見据える。

 その庭には、たくさんの樹木が生えていた。

 空へ空へと手を伸ばす枝は、木の生命力そのものだ。

 深緑の葉が画面一杯、溢れんばかりに広がる。

 一つの生物のように脈打つ葉の重なりの上に、青の空色が映えていた。

 そして……見下ろした木の葉の隙間。

 日の照り返しと影のコントラストが激しい砂の上に、人が立っている。

 その後ろ姿はどこか寂しげだ。

 手を伸ばした先にある花は、目に焼き付く赤だった。

 今目の前にあるのは、確かにあの日の景色だ。
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