描かれた夏風
 忘れようとしても忘れられない。

 この風景は私の心に深く根を下ろしていた。

 あの日、何気なく裏庭を見下ろしたことがきっかけで、私は今の私になったのだ。

 大切な、始まりの景色。

 心のアルバムに挟むには、その彩りは鮮やかすぎた。

「……よし」

 締め切りに何とか間に合わせられそうだ。

 塗り残しはないか最後の確認を済ませて、先生に提出する。

「終わったーっ」

「長かったねーっ」

 私と真由は大きく息をつくと、抱き合って互いの健闘を称えた。

「代表、誰かな。やっぱり一人はアスカ先輩だよね。ね?」

「うん、真由は本当にアスカ先輩のファンだね」

「えへへ。アスカ先輩カッコいいもん」

 真由が表情を緩ませて笑う。

 言われなくても、アスカ先輩がカッコいいことは学校中の常識だ。

 作品を仕上げた解放感で、私は大きく伸びをする。

 あとは結果を待つだけだ。

「今日これからどうする? パーッと打ち上げでもする?」

「いいね。……あ、都築先輩だ。せんぱーいっ!」

 渡り廊下の向こう側へと、真由は元気よく駆けていく。
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