描かれた夏風
「そうだねえ。締め切りは三日後だもんね。友絵が休んでくれたら、ライバルが一人減るのになあ……」

 何気ない軽口に、どきりとした。

 ――ライバルが減るのに。

 多分、それは真由の本音だ。

 でも聞かなかったふりをして、私はいつも通りに応じる。

「ひどいな真由は。ひどいよーっ」

「あはは、ごめんごめん。でも私たちは三ヶ月前から制作に取りかかっているのに、友絵は二週間だもんね。本当に、今日までよくやったね」

 誉められて、少し照れくさくなる。

 人を素直に賞賛できるのが真由のいいところだ。

「で……犯人は見つかった?」

「犯人って」

「決まってるでしょ、友絵の作品に墨をかけた犯人よ。まだ見つかってないんでしょ。探さないの?」

 気分のよくない話題に、私はため息をこらえる。

「知らないよ。犯人探しなんてしても意味ないと思う」

「寛大だね」

「代表選考会の文化祭には間に合わせられそうだから、実害はあんまりないよ。第一、犯人探しなんてしてる隙があったら作品を仕上げなきゃ」

「あはは。そうだねえ」

 私は唇をギュッと結んだ。

 これから三日間、最後の仕上げだ。
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