ルージュはキスのあとで





 確かにいつもどおりだ。


 いつもどおりの低落だ。それは自分でも嫌ってほどにわかっている。
 いつもどおりだから、マズイんだってば、こっちとしては。

 皆藤さんはなにもかも私の気持ちをわかっていて言うのだからタチが悪い。


 ……カラカラ笑ってはっきり言わなくたっていいのに。


 最初から、皆藤さんは真美に対してはっきりと物事を言っていた。
 
 それも胸に突き刺さるようなことを遠慮もなくグサグサと。

 どれも本当のことばかりだから、言い返せないのだけどさ。


 それでもやっぱり面白くないんですけど、皆藤さん。



 今更ああだこうだと言ったって後日撮り直しなんてことにはならないだろう。

 私は、大きくため息をついたあと、テレビでしかみたことがないカメラスタジオを見渡した。

 思ったより天井も高いし、広いスタジオだった。
 私は自分が置かれた立場を半ば忘れたくて、スタジオ内を見て気を落ち着かせた。
 が、はたからみたらしっかりおのぼりさんだろう。

 
 こういうのテレビで見たことあるある! 思わずあちこちキョロキョロと見渡したくなる衝動をグッと押させ、皆藤さんに大人しく着いていく。


「今日はね。長谷部くんからのメイク指南を受ける前の、今の状態の真美さんを撮っておきたいのよ」

「……は、はぁ」

「所謂、ビフォーアフターってやつを読者に見せたいしね」

「……ま、そうでしょうね」



 ビフォーがあきらかに悪ければ、アフターの写真が生き生きとしてくるに違いないのだし、読者としてもその変化を楽しみにしているのだろうから。

 それに、雑誌側としても、いかにどう変化したか。

 その伸びしろを記録として撮っておきたい。
 そういう事情もよくわかる。


 うん、わかっているつもりだ。





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