ルージュはキスのあとで
しかし。
しかし、だ。
こちらとしては、雑誌に載るということ自体大変なことなのだ。
それも……内容が内容だし。
女子力低下のメイクヘタがどれだけ三ヶ月間でうまくなるのか! そんな体験モデルをするわけだ。
ぶっちゃけ、〝田島真美っていう女は、メイクがめちゃくちゃヘタクソです” っていうことを世間に知らしめようとしているんだ。
そうだよ、そうなんだよ。
なんか、メイクうんぬんとか男がどうとか。そんなことの前に断る理由、ナンバーワンっていうのが残っていたじゃないか!
世間に、それも全国に、いやいや世界に田島真美っていう一般の、それも女子力がまったくない女がファッション雑誌に載ってしまうのだ。
それもメイク講座なわけだから、顔を撮らないわけにもいかないし、載せないわけにもいかない。
不覚だった。そんな大変なことに今まで気がつかなかったなんて。
ここまできてしまった以上、今からダダをこねたって白紙に戻すことなんてできるわけないけど断りたい。
しかしカメラスタジオにいるたくさんの人を見てため息をつく。
どう考えたって、今更「やめさせてください」だなんて言えない雰囲気だ。
忙しなく動く、所謂スタッフさんという方たちが真剣な顔をしてスタンバイしているのだ。
一応オトナとして……ここで中止を言う勇気は……ない。
ガックリと肩を落として、皆藤さんに勧められるがままにパイプイスに腰かけた。
今、座っているあたりは薄暗くスクリーンからは遠いのだけど、目の前のカメラやライトなどがある辺りから緊張感が漂っていた。
今更だけど、怖気つきそうだ。
逃げ出したい。でも、そんなことできるわけがない。
そんな葛藤の中、入り口付近に視線を向けて思わず固まってしまった。