愛を教えて ―番外編―

(4)卓巳の思惑

万里子は大樹の言葉に息を飲んだ。

大広間の隅に置かれたソファ、脇にはメイドの千代子も立っている。彼女の顔も青ざめていた。


「大樹……“犯罪者”という言葉の意味はわかる? お友だちもわかっていて、口にしたのかしら?」

「う……ん。よくわからないけど、悪いことをした人って意味だと思う。みんな言ってたから、大地と北斗は“はんざいしゃいっか”だから、仲良くしたらダメって家の人に言われたって。でも、お兄ちゃんと大地は仲がよかったし……。お母さんが仲良くしなさいって言ったから、僕も北斗に言ったんだ」


――北斗のお父さんが悪い人でも関係ないから、仲間に入れてやるよ。


「そう言ったら、アイツ蹴ってきたんだよ。僕は仲良くしようと思ったのに」


胸を張って言う大樹をみつめ、万里子は反省しきりだ。


愛実がPTAに加わったとき、表面上だけ仲良くしたツケが回ってきたのかもしれない。

こんなことなら、夫同士の過去や会社の問題など気にせず、最初からもっと踏み込んだ付き合いをしておけばよかった。

ある意味、マイペースの長男たちは周囲の声など無視してやってきたのだろう。でも、ちゃんと周囲の声を聞く次男たちは、それに巻き込まれてしまった。


「あのね、大樹。北斗くんのお父さんは悪いことなんてしてないのよ。だから……」

「そんなことないもん! 僕……ちゃんと聞いたんだ!」

「お友だちにそう聞いたの? きっと、お友だちのおうちの方は勘違いをして」

「違うよ」

「じゃあ、誰が大樹にそんなことを言ったの?」

「……お父さん」


さすがに、万里子の笑顔も引き攣った。


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