愛を教えて ―番外編―
しかし――急遽増やした警備員に足もとをすくわれ、卓巳は思わぬピンチに陥る。

なんと増員メンバーのひとりが窃盗グループに屋敷の見取り図を横流ししたことが判明した。しかもその直後、万里子に不埒な真似をしかけた警備員まで現れ……それも増員したメンバーだった。

どうやら、若いメイドたちにはセクハラめいた言葉を口走り、万里子にも猥褻な視線を送っていたと聞き、卓巳は青ざめる。

なぜ言わなかったんだ、と問いただす卓巳に、


『何度も申し上げました! 若いメイドや子供たちも怯えている、と。元の警備員に戻してくださいとお願いしたのに……』


(そうならそうと、もっとハッキリ言ってくれなければ、私にはわからないじゃないか!)


普段であれば厳選されたメンバーをそろえているが、急ぎ増員したため質が落ちてしまったらしい。警備責任者の首を飛ばしたいところだが、取り急ぎ、数を揃えろと命じたのは卓巳本人だ。

それに万里子にも言い分があった。

彼女は必要以上に男性の視線を警戒する。その自覚があるため、思い込みで卓巳に報告することを躊躇った。遠まわしに、元に戻して欲しい、身元調査をやり直して欲しい、などと言ったらしい。

それを卓巳は『調査は問題ない』で押し通してしまった。

結局、万里子は怒って警備体制を元に戻すまで子供たちを連れて実家に戻ってしまい……。



卓巳にとって万里子は最大の弱点だ。夫婦ふたりの旅行や五人目の子作り計画を横に置き、


「わかった。まず、話を聞こう」


株主総会より慎重に、卓巳は気持ちを切り替えながら口を開いたのだった。


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