愛を教えて ―番外編―
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数時間後――。

千代田区にあるホテルのロビーラウンジに万里子は立っていた。彼女に向かってひとりの男性が歩いてくる。美馬藤臣だった。



『明日もきっと来られないわよ。ご家族を大切にされるイメージじゃないもの』

『さっさと上のお子さんともども、この学校を辞めてくださればいいのに。父兄が逮捕なんてことになったら、学校の知名度が下がってしまうわ』


万里子が仲の良い保護者に聞いたところ、準備の終わった遊戯室の中でそんな会話が聞こえてきたという。


『他にも色々話されていたようだけど……よく聞こえなくて』


そんなふうに言葉を濁していた。それは多分、聞くに堪えない内容だったのだろう。

それを、愛実と北斗のふたりが聞いてしまった。北斗は『なんでママを泣かせるんだ!』そう言って遊戯室に飛び込んできたという。

黙りこんで答えない大人たちに業を煮やし、彼は飾りの花を壊し始めた。

愛実は気丈にも最後まで残って花を元に戻し、手伝った万里子に礼を言って帰っていったが……。

万里子は責任を感じていた。

子どもたちのために良かれと思い、卓巳と藤臣の協力を提案したのだが、それは愛実にとって負担だったのではないだろうか?

卓巳のことは強引に引っ張り出したが、もし本当に藤臣が来なかったら、噂を肯定することになってしまう。


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