愛を教えて ―番外編―

(18)フェアプレイ宣言

卓巳はコテを掴んだまま、エプロンの前で腕を組み、息子の質問に答えた。


「美馬に勝ちたいか、と聞かれたらイエスだ! その結果、美馬の会社が潰れることはあるかもしれない」


胸を張る卓巳に、万里子は青くなる。いや、万里子だけじゃない。周囲の大人はほとんどが青ざめ、目が泳いでいた。


(ひょっとして、美馬さんと会っていたことをまだ怒っているの?)


その可能性を考え、万里子は卓巳にやめさせようと思い立つが……。

卓巳はどうしようもないほど嫉妬深くて、何年も覚えているほど執念深い。だが、公正さだけは失わない人だ。個人的な恨みで、人を貶めるようなことは絶対にない。

万里子は卓巳が言い出すことにドキドキしながら、それでも彼を信じることにする。


だが、子どもたちは額面どおりに受け取ったらしく、横から長男の結人が口を挟んだ。


「そんな……僕は大地くんとは友だちなんだ。嫌いになんてなれないし、お父さんにそんなことして欲しくないよ……大地くんのお父さんと仲良くして欲しい」


頼りなげな声で、結人は卓巳に言う。


< 239 / 283 >

この作品をシェア

pagetop